ネフローゼ症候群(NS)は、小児の主要な腎臓病であり、腎臓の糸球体から血液中のタンパク質が尿中に大量に漏れ出てしまう病気です。糸球体血管壁の透過性を高める因子の存在が示唆されてきましたが、原因はいまだに解明されていません。また、NSにはステロイド治療に反応するタイフプと反応しないタイプがあります。発症時は症状がよく似ており、4週間のステロイド治療を行う以外に、この2者を鑑別する方法はありません。私たちは、患者末梢血単核球細胞のDNAメチル化解析や、健常ヒトポドサイト細胞株を使用して、透過性因子の探索や、ステイロイド感受性の予知を可能とする検査法を確立することが出来るか、研究を行なっています。
明るい未来のある子供たちが病気で苦しむのは、本人のみならず、家族の皆さんにとっても大変なことです。小児のネフローゼ症候群で、ステロイド感受性を発症時に予知できることは、早期に有効な治療選択を可能とし、ステロイドの副作用を減らすのみならず、入院期間を短くすることにつながります。この研究の特徴は患者血清刺激による株化健常ヒトポドサイトの反応性を見ることで、ステロイド感受性を予知する点です。私たちの研究結果から、ステロイド感受性N Sと抵抗性N Sではその透過性因子が異なる可能性が示唆されています。株化ヒト健常ポドサイトの表面に発現するマーカーを使用して、患者血清中にあるステロイド抵抗性の蛋白尿を引き起こす因子の有無を判別する系であると考えています。
また、私たちは、これまで、透過性因子を産生すると考えられてきた末梢血リンパ球のDNAメチル化に着目して、ネフローゼ症候群の再発時と寛解時で同一患者さんの末梢血のD N Aメチル化が変化する遺伝子を見出してきました。健常コントロール群と比較しても、病気の勢いによってメチル化程度が異なり、再発>寛解>健常の順に従ってメチル化程度が変化していました。これらの遺伝子のD N Aメチル化変化が本当に病態に従って変化するのかを、異なるコホートで確認しています。D N Aメチル化率をマーカーとしたネフローゼ症候群の「治癒」を鑑別することを可能にする新しい検査方法です。
これまで私たちの研究室では、小児の特発性フローゼ症候群の病因解明のためにラットを用いた疾患モデル、ジェネティクス、エピジェネティクス、さらにポドサイト細胞生物学による研究を行ってきました。腎臓は高度に分化した臓器であり、組織や糸球体を構成する細胞を種類別に採取するのは容易ではありません。また、腎臓病は免疫との関連が深いですが、血液中の免疫担当細胞での変化が、どのように糸球体という血管で構成された装置の破綻や、それに伴う病態を引き起こすのか、解明すべきことはたくさんあります。現在私たちは、英国ブリストル大学のサリーム博士らが確立した健常ヒトポドサイト細胞株、健常ヒト糸球体血管内皮細胞株を使用した疾患モデルで、蛋白尿発現時のポドサイトの特徴的な形態的変化を、細胞株での細胞骨格再構成に関わる因子の変化として、透過性亢進の指標と捉えて測定しています。また、患者末梢血単核球におけるD N Aメチル化解析から、遺伝子発現では測定しえない病気の状態を測定できる可能性を見出してきました。上記の知見をさらに発展させて、病気に苦しむ子供たちの予知や早期治癒を目指して貢献したいと考えています。
科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)
基盤研究C 2021〜2024年(分担者)、基盤研究C 2019〜2022年(分担者)、基盤研究C 2019〜2022年(代表者)
ダイバーシティを強みとし、他分野からの新たな視点により、様々な研究が更なる発展を遂げることを期待します。
主な講義のテーマ | 小児腎疾患 |
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担当講義名 |
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講義の概要 | 成育医療を基盤とした、小児の成長発達、小児保健、体液管理、腎疾患、遺伝性疾患、先天異常について |
社会貢献できる関連分野名 | 小児科学、小児腎臓病学 |
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参画している審議会・委員会名 |
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直近の講演会のタイトル | 末梢血T細胞のDNAメチル化にみる微小変化型ネフローゼ症候群 |
小児科専門医、小児科指導医、腎臓専門医、腎臓指導医、臨床研修指導医