近年、肺癌は男女共に癌死原因別の第1位となり、現在もなお増加を続けています。中でも近年は非喫煙者の女性における肺腺癌の発症率が上昇しており、女性ホルモン(エストロゲン)の関与が注目されています。エストロゲンがリスクファクターとして知られる乳癌では、その律速酵素であるアロマターゼの阻害剤が治療に広く用いられています。そこで私は、肺癌のなかでも特に肺腺癌に着目し、アロマターゼの発現を調べるとともに、エストロゲンやその他の臨床病理・分子生物学的因子との相関を検討し、アロマターゼ阻害剤の有用性を検討することを目的として研究を行っています。
当科で治癒切除を行なった肺腺癌150例を対象として、アロマターゼおよびエストロゲン受容体(ERα,ERβ)、プロゲステロン受容体(PR)などの性ホルモン受容体およびHER2の肺腺癌における発現を調べ、肺癌における代表的な遺伝子変異として知られるEGFR,KRAS,BRAF変異を含む臨床病理学的因子との相関を検討しました。その結果、アロマターゼ,ERβはそれぞれ肺腺癌の88.0%, 79.3%と高率に発現していることがわかりました。予後解析では、アロマターゼ高発現群は低発現群に比べ有意に予後不良でした。EGFR変異の有無別のサブグループ解析では、EGFR変異型群では予後に全く差を認めなかった一方で、EGFR野生型群ではアロマターゼ高発現群は低発現群比べ有意に予後不良でした。ERβ発現もRFSにおいて有意に予後不良でした。これらの結果から、特にEGFR野生型群の肺腺癌では、腫瘍内アロマターゼにより産生されたエストロゲンが、ERβを介して腫瘍の発育・進展に関与している可能性が高いことが示唆されました(Tanaka K, et al. Am J Transl Res, 2016)。
基礎実験ではヒト肺腺癌由来細胞株A549でmRNAレベルでのアロマターゼの発現を確認しており、A549へのshRNAレンチウイルス感染によりアロマターゼ低発現及び過剰発現細胞株を作製し、アロマターゼの増殖能への影響及びアロマターゼ阻害剤の効果を検討したところ、アロマターゼ発現をノックダウンすることで、増殖抑制効果を認めました。また、アロマターゼの過剰発現株においては、アロマターゼ阻害剤に対する薬剤感受性が上昇しました。これらの結果からアロマターゼ発現は細胞増殖に関与していることが示唆され、アロマターゼ阻害剤はある種の肺癌治療において有用である可能性が高いのではないかと考えられます。
この研究では、非小細胞肺癌の中でも特に肺腺癌に着目し、培養細胞を用いてアロマターゼの発現が腫瘍の発育にどう関わるか、また、遺伝子変異の有無を含め、どのようなタイプの肺腺癌に関与するのかを明らかにしたいと考えています。また、培養細胞及び動物実験モデルを用いて、アロマターゼ阻害剤により腫瘍の縮小・増殖抑制効果があるかどうかを検証し、最終的には肺腺癌に対する新たな治療戦略としてホルモン療法の基盤を構築できることを期待しています。特に、ホルモン療法の確立、効果検証においては共同研究につなげたいと考えています。
様々な視点、様々なスキルを持った人たちが混ざり合い、素敵なネットワークが広がるといいなと感じています。
主な講義のテーマ | 外科手技、医療安全 |
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担当講義名 |
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講義の概要 | ・医療における多職種連携やチームワークのあり方、重要性を学び、スキルとして身につけるための実習および演習科目 ・採血や結紮、縫合など外科手技の基本を学ぶための実習科目 ・医療チームの一員として、診療やカンファレンスなど日々の業務に参加し、医療における医師の役割を理解し、医師となるための基本スキルを身につけるための実習 |
社会貢献できる関連分野名 | 医学、教育 |
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参画している審議会・委員会名 |
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