不安定な社会、生活の失調などから、子どもの「生」は綻び、教育現場は疲弊している。このような現状を打破すべく、筆者は身体性を重視し衣食住をリソースとしながら、表現とコミュニケーションによる学び=アート教育に従事してきた。アートは「生(いのち)」の育みとケアによって人間の全体性を回復する。これまで、アート教育における実践を教科以前の「からだ・気づき・対話」という視点で省察し、アートすることが「根源的能動的な学び」を誘発し、その先に「生」の技法が生成される過程を捉えてきた。この成果をもとに、学校教育における「アート的身体」の概念形成を図ることにより、美術科教育の学習内容や方法を問い直し、これからの時代にふさわしい学びの方向性を探りたい。
本研究の目的は、美術教育における身体性の基礎研究からアート的な思考や行為の基盤となる「アート的身体」の概念構築である。アート的身体とは、「身体性を重視する統合的なアートの学びにおいて育まれる「生」の技法、すなわち、よりよいあり方(生き方)を探る身体」のことを示している。本研究では、美術教育の歴史から身体育成観の変遷を俯瞰し、未来を見据えた実践を通じてアート的身体のあり方を提案していく。その際に、美術(アートシーン)の流れにも目を向け1960年代前後のハプニング(パフォーマンス)から現代におけるソーシャリー・エンゲージド・アートやパフォーマンス心理学の動向にも触れ、美術教育におけるアート的身体=行為する「からだ」の意義を示したい。また、身体性とデジタルの融合による学びなど、これからの時代に求められる資質・能力の育成を視野に入れた提案をしていきたい。
・身体表現や演劇などによるパフォーミングアーツとの連携研究からアート的身体を育む教育内容や方法などをプログラム化する研究。
・(地域の)衣食住といった生活文化における身体へのまなざしから、アート的身体の育成に迫る。
・デジタルテクノロジー×身体性における学びの有効性を問う研究から美術科教育における題材開発へ。
・アートや文化における社会包摂の場づくりと身体(あり方)の変容を問う研究。(親子対象や障がいをもつ方などを対象としたアートワークショップなどの開催)
・幼児教育における表現活動においてアート的身体の芽生えを捉える。幼保小接続研究へ。
・インクルーシブ教育におけるアート的身体の生成過程を捉える。
科学研究費助成事業基盤研究(C)(一般)「美術教育に置けるアート的身体の構築」(H29−31)
身体性(実感に基づく学び)を重視し、表現とコミュニケーションによるアートの教育は、人と人、人と地域をつなぐ要素として機能する。群馬の地で多様な知が行き交い、地域における文化の担い手(アート的身体)が育まれることを期待し、筆者の専門分野を活かして尽力していきたい。
主な講義のテーマ | アート的身体を育む学びのあり方 |
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担当講義名 |
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講義の概要 | 古今東西の美術作品をもとに、対話型鑑賞や調べ学習を通じて、登場人物等になりきり、劇化して演じて楽しむ。身体性、協同性、即興性、自己原因性(ワークショップの特性)等の発揮が期待される学習プログラム。 |
社会貢献できる関連分野名 | 幼児教育(表現)、図画工作科・美術科教育、ワークショップを通じた学び合い、等 |
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参画している審議会・委員会名 |
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直近の講演会のタイトル | 「からだ」から始まる造形表現ーアート的身体を育むためにー |