本研究の内容は大きく二つに分けられる。一つは、西洋古代(ギリシャ・ローマ)の美術が当時の社会の中で果たした役割、つまり古代における美術と社会の関係を考察することであり、もう一つは、ルネサンスなど後代の西洋や近現代の日本の造形文化において、ギリシャ・ローマの美術がどのように受容された、または受容されているのかという、古代美術の受容を認識することである。現代日本における西洋古代美術の受容の問題は、テレビ等の広告や商品、サブカルチャーといった多様なものにも射程を広げることで、我々がどのような文化の中で生活しているのかを再認識することにもなる。なお、主な題材は古代から作例があるギリシャ・ローマ神話である。
西洋古代における美術の研究にとどまらず、その後の西洋文化や近現代の日本文化における受容も範囲に含めており、古代からと現代からのという両方の視座をもち、古代西洋から現代日本までの造形文化を連続的に考察することが本研究の特徴である。西洋古代においては、当時の社会的・経済的地位のある教養人たちによる作品鑑賞法(参考:挿図左)や、ルネサンス時代などの後代における古代受容の時代背景に着目する。また日本においては、西洋の古代美術作品やギリシャ・ローマ神話表現を通して、明治期の西洋文化導入(参考:挿図右)のみならず、現代にも連綿と継承される西洋文化受容と日本文化との融合なども扱う。
本研究の成果は、広告や商品などの身近な造形表現にも関心を寄せることで、現代日本に生きる我々がグローバルな視野で自分たちの多様な文化を再認識し、より心豊かな日常生活を送るための一つのヒントともなるであろう。
造形表現は美術館や美術書で出会うばかりではなく、我々の日常生活と密接につながっている。たとえば、テレビ等の広告や商品から古今東西の造形文化を考え、現代社会に生きる我々が自分たちの文化を再認識するとともに、身近な気づきの体験によって、より心豊かな日常生活を送ることができるようになるのではないかと考えている。
西洋古典作品の美術教材をテーマとした「石膏像を見に行こう!」展(2016年、挿図)では、所属学科内の複数領域のゼミが合同主催し、本学が所在する玉村町の後援、また他大学や企業からの協力を得た。その経験をふまえ、今後は他大学や県内の美術館・博物館や小・中・高等学校との美術や社会の教育に関する共同研究や、美術関連企業との産学連携も可能ではないかと考えている。
「学際的」という言葉がありますが、学問分野にとどまらず、より広範な分野での力が結集して、群馬県の内外に発信できるようなツールとなることを期待しています。
主な講義のテーマ | 西洋美術史、西洋古代美術、ギリシャ・ローマ神話美術、図像表現 |
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担当講義名 |
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講義の概要 | 受講者が西洋美術史学という専門分野を学ぶ上で必要な基礎知識や論理的思考力を身につけたり、現代社会を生きる上での素養を身につけたりするのみならず、身の回りにある造形表現にも関心が向き、より心豊かな日常生活を送るためのきっかけをつくる。西洋美術史を概観し、代表的な作品を鑑賞するほか、古代作品を通して美術と社会の関わりを考えたり、古代から近代まで美術作品で多く取り上げられる神話の図像表現や、動植物や物のもつ象徴性などを取り上げたりする。また、テレビCM等の広告や商品、漫画・アニメ等のいわゆるサブカルチャーも扱うことで学問と日常をつなげる。 |
社会貢献できる関連分野名 | 教育、美術、社会(主に歴史) |
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参画している審議会・委員会名 |
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直近の講演会のタイトル | 「東西の古代美術をつなぐ神・人・動物」(2018年2月、於・群馬県立近代美術館) |